東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)317号 判決 1984年6月13日
原告
佐々木弘
同
正木洋
同
井上康男
同
上田稔
同
神山豊美
同
野呂儀男
同
高橋満
同
斎藤稔
右原告ら訴訟代理人
岡田宰
助川裕
中村順英
被告
通産産業大臣
小比木彦三郎
右指定代理人
新宮賢蔵
外八名
主文
本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 原告ら
被告が昭和五一年一一月六日付五一資庁第八二〇三号をもつて北海道電力株式会社に対してした電気事業法四一条一項の規定に基づく認可処分のうち、燃料運搬設備に係る油の輸送管設置に関する部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
(本案前の答弁)
主文同旨
(本案の答弁)
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、訴外北海道電力株式会社(以下「北電」という。)の申請に対し、昭和五一年一一月六日付五一資庁第八二〇三号をもつて、伊達火力発電所(以下「本件発電所」という。)の燃料運搬設備に係る油の輸送管(以下「本件油輸送管」という。)の設置に関する工事計画の認可を含む電気事業法(以下「法」という。)四一条一項の規定に基づく認可処分(以下右認可処分のうち、本件油輸送管にかんする部分を「本件処分」という。)をした。
2 しかし、本件処分には、次のとおりの違法があるから、その取消しを求める。
(一) 本件油輸送管は、法が認める電気工作物ではなく、本来法四一条一項に基づく認可処分の対象となりえないから、本件処分は違法である。
すなわち、発電所等の構外を通る輸送管で油を輸送することは、このような輸送管は法が定める「輸送管」「導管」「配管」のいずれにも該当しないため許されないものと解すべきである。しかるに、本件油輸送管のうち、発・着両ターミナル部分を除くその余の部分は、第三者の所有地又は道路敷を通つているから、法上許容されないものというべく、法四一条の認可の対象になりえないものである。実質的にみても、発電所設備は、大量の油を消費するから、油輸送管によることは、大量の油が構外を通過することを認めることとなり、法一条の定める公害防止の理念及び法四一条三項二号、三号の安全性重視の思想に反することとなるのである。
(二) 本件処分には、法律上の前提要件たる法八条一項の電気工作物の変更の認可を受けていない違法、もしくは、本件発電所の設置について法八条一項に基づいてされた電気工作物の変更の許可の違法性を承継した違法がある。
すなわち、法四一条一項の認可を受けるためには、その前提要件として法八条一項の電気工作物の変更の許可を受けなければならない(法四一条三項一号)。しかるに、本件油輸送管については、法八条一項の許可を受けていない。
また、法八条一項の許可の対象は、本件発電所の設置については、法六条二項四号イの「設置の場所、原動力の種類、周波数及び出力」であり、立地の適正、出力等につき慎重な審議を尽くさねばならないのであるから、燃料なくして発電することはできないから、これらを判断するにあたり、当然燃料の供給方法、供給計画、供給方法の経済性、発電原価への影響(電気事業法施行規則六条一三号参照)、供給方法による自然条件及び社会環境に対する影響(同条九号参照)等を審査しなければならない。しかるに、北電は、本件発電所に関する法八条一項の許可申請にあたり、燃料供給のための施設であり、本件発電所にとつて重大な電気工作物である本件油輸送管につき、前記施行規則六条により添付が義務付けられている工事概要説明書等の必要書類を添付せず、被告は、この不備を黙過し、本件油輸送管の経路等につき何ら審査することなく許可した重大な違法がある。そして本件処分も、右先行行為の違法性を承継して当然違法となる。
なお、昭和四七年電源開発調整審議会は、本件発電所を電源開発基本計画に組み入れたが、電気工作物の油輸送管について環境調査を行つておらず、また、地元と何ら調整、接触を行なわなかつたから、右の組入れは違法であり、本件処分は右先行行為の違法性を承継した点においても違法がある。
(三) 本件処分は国民に損害を惹起させることが高度の蓋然性をもつて予測されうるものであるから、この点からも違法なものとして取り消されるべきである。
そもそも二地点間を大量の石油類を定常的に輸送しようとする高圧油輸送管は、必然的にその通過地域に大災害の危険をもたらすこととなる。まず、その石油類が重油であるとしても、木材等に比し燃えやすく、しかも単位容積当たりの発熱量は極めて大きいから、一旦発火した場合は大火災となる可能性が高い。また油輸送管による輸送ではその沿線地域に大量の可燃物が連続的・恒常的に存在しており、事故の際の被害の程度は大きい。更に油輸送管では流体が高圧下で移動しているので、その破損が生じれば仮に保安装置が正常に作動しても瞬時に停止することはできず一定量の高圧の石油類の流出は免れず、停止後においても常圧の石油類が大量に破損部位付近にとどまり管勾配により流出し続け、幸い火災が発生しなくても、大量の流出油は付近を汚染し、環境破壊を招く。
ところが、本件油輸送管は消防法に基づく技術水準に合致せず(後述(四))、また自然的条件、土木工学的にも破損、漏洩のおそれがあり(後述(五))、危険性が高いから、本件処分はこの点からも違法である。
四(1) 本件油輸送管は消防法に基づく技術基準に合致せず、危険性が高い。
すなわち、油輸送管に係る消防法技術水準は「危険物の規制に関する規則」(昭和三四年九月二九日総理府令第五五号。以下「規則」という。)及び「危険物の規制に関する技術上の基準の細目を定める告示」(昭和四九年五月一日自治省告示第九九号。以下「告示」という。)で定められているが、本件油輸送管は次のとおり右技術水準に違反している。
(2) 規則二八条の三第一項三号は狭あいな道路に移送取扱所を設置してはならないとしている。
右の「狭あいな道路」とは、対向する自動車の通行が自由にできない道路又は道路構造令五条で規定されている車線の数が二以上で、かつ車線の幅員が2.75メートル以上の道路以外の道路というべきであり、特に本件油輸送管の場合は、危険物である原油及び重油を輸送するものであるから、二車線以上の道路が確保されなければならない。
しかるに、本件油輸送管が設置される道路では、路面幅が五メートル以下の狭あいな道路に該当する箇所が伊達市道黄金三〇号線外随所にあり、右規定に違反している。
(3) 規則二八条の一二第三号は、配管を地下に埋設する場合、配管の外面と地表面との距離は、山林原野以外の地域については、1.2メートル以下としないこととしている。
しかるに、本件油輸送管については、﨑守トンネル内外一箇所で右規定に違反している。
(4) 同条四号は、配管は地盤の凍結によつて損傷を受けることがないよう適切な深さに埋設することとしている。
しかるに、本件油輸送管設置にあたり、北電は地盤の凍結の深さについて実測していないので、右規定を充足しているとはいえない。
(5) 同条五号は、盛土又は切土の斜面の近傍に配管を埋設する場合は、告示で定める安全率以上のすべり面の外側に埋設することと定め、告示二六条は、右安全率を1.3としている。
しかるに、北電が行つた伊達市道黄金一号線石川町寄り斜面外一箇所の斜面の安定計算は、土質定数及び地下水位を測定せずに行つた虚偽の計算であるから、右規定に違反している
(6) 規則二八条の一六第二号によれば、配管を地上設置する場合は、配管は告示三二条に定める施設に対し、それぞれ同条で定める水平距離を有しなければならないとされている。
しかるに、本件油輸送管はベトトル川外三河川の専用橋による横断箇所で地上設置となるのに右規定に違反している。
(7) 規則二八条の二四は、不等沈下、地すべり等の発生するおそれのある場所に配管を設置する場合は、当該不等沈下、地すべり等により配管が損傷を受けることがないよう、必要な措置を講じ、かつ配管に生じる応力を検知するための装置を設置しなければならないとしている。
しかるに、伊達市道黄金一号線大谷地付近は泥炭地であり不等沈下の発生のおそれがあり、また同線石川寄り外二箇所は地すべり発生のおそれがあるのに、右措置がとられず右装置も設置されず、右規定に違反している。
(8) 規則二八条の三三、告示四七条一項三号、四号、二項二号は、配管を山等の勾配のある地域に設置する場合、鉄道又は鉄道の切り通し部を横断して設置する場合は、保安上必要な箇所に緊急遮断弁を設けなければならないとしている。
しかるに、本件油輸送管では伊達市黄金一号線等の山等の勾配のある地域や室蘭本線等の横断部に緊急遮断弁が設置されておらず、右規定に違反している。
(9) 規則二八条の三五、告示五〇条は、配管の経路の二五キロメートル以内の距離ごとの箇所及び保安上必要な箇所に感震装置及び強震計を設置しなければならないとしている。
しかるに、本件油輸送管では感震装置等は、発・着ターミナルのみに設置されることとなつており、右規定に違反している。
(五)(1) 本件油輸送管は自然的条件及び土木工学的観点からしても破損・漏洩の危険性が高い。
油輸送管の破損・漏洩の態様としては、油輸送管が大規模に折損、穿孔する場合と長期微量漏出の場合とがある。後者は油輸送管が腐触し、小穿孔から少しずつ油がにじみ出るもので、すべての油輸送管に通有的にみられ高頻度に発生する。前者は耐震設計上の欠陥、他工事による事故、地盤沈下、溶接不完全等によるもので、地震頻発地帯か否か等の設置場所の地域性、ガス・水道等の設置の有無という設置場所の地下の利用状況、地質、工法等に規定される。
(2) 本件油輸送管が設置される地域は、我が国有数の火山地帯であり、現在も噴火・地震の絶えない有珠山、昭和新山等のある地域である。その上、その設置経路の地盤は不良である。
すなわち、設置経路の大部分を占める山側から海側へと広がる扇状地斜面は、地質が極めて劣悪かつ軟弱であり、その地表面は層厚が不特定(一ないし三メートル)な火山灰質シルト、腐植土、砂質シルト、シルト質砂等N値(地盤の密度、固さを表わす値)五以下の極めて軟弱な地層に覆われ、一定堅硬な砂礫層は深さ一〇ないし二〇メートル程度の深層からようやく現われるが、一部地域ではその下にかえつて軟弱なシルトないし砂質シルトが発達しているのである。
また経路沿い、特に伊達市清住地区は湧水も無数あり、地表面から深度1.8メートル内外までの地層は地下水面が非常に高く、1.5メートル前後も表層を掘削すると直ちに帯水層にぶつかる所であり、表層をなす地層の大部分は、含水比が極めて高い、高圧縮・低強度の地層である。これは、地盤沈下を著しく起こしやすい地盤というべきである。
本件油輸送管は、このような表層を2ないし2.5メートル掘削し、通常地下約1.2ないし1.8メートルの深さに埋設されるため、本件油輸送管自体による地下水脈の遮断及び埋設工事に伴う止水工事による地下水脈の変化が起こり、部分的に地下水の枯渇、これに伴う地盤沈下が生ずる可能性がある。そして、地質・岩相上の特徴が場所により異なり地形も極めて起伏に富むため、地盤沈下は、当然不等沈下の性質をもつ。本件油輸送管は、このような地盤沈下の進行により、異なつた岩相上の特徴をもつた二つの地層の境界面で大きな歪みを受け、折損するおそれがある。
このように止水工事により地下水脈が変化し、地盤沈下を生じつつあることは後述するように、現に埋設工事中道路面等に亀裂を生じてきたことからも明らかである。
又伊達市街地北方の丘陵地(館山付近)は、主に洞爺軽石流推積物により構成され、広義のシラスに属し、全体として未凝固で透水性が極めて高く表面が著しく風化しているため、連続降雨や集中豪雨にあうと大規模な土砂流出や崖崩れを起こす。本件油輸送管は館山付近の約六〇〇メートルの区間をこのシラスを貫く専用トンネルで通過するので、トンネルの開削により、更に地盤は崩れやすくなつている。
また、ある範囲の粒度及び粒度組成を有する軟弱な砂質地盤が、地震時に際してある程度以上の激しさの振動を受けると、砂質地盤を構成する砂粒子と砂粒子の間を満たす間噴水の圧力が一定限度以上に増大することにより砂粒子の結合がゆるみ、新潟地震にみられた地盤全体が液体のような挙動を示す「流砂現象」又は「砂質地盤の液状化現象」を示すに至ることがある。
本件油輸送管の経路及びその周辺に発達する地層の中には、新潟地震の際液状化した砂質土によく似た粒度および粒度組成を有する砂質土が存在しており、この地域が地震の多発地帯であること、またいわゆる直下型地震の予測は不可能であることからすると、地震の前後に地下水の賦存状態の変化が起つたこと等が原因となり、地盤の一部が液状化するおそれが十分にあり、かくして、埋設された本件油輸送管の位置が移動し、これに伴ない管が曲がつたり折損したりする事故が発生することとなる。
(3) 本件油輸送管は、土木工学的にみても、折損・漏洩の危険性がある。
土手に埋設され静止している管に作用する鉛直土荷重は、管直上の土柱の重量に等しいが、地盤中に局所的に空洞が形成されると、周囲の地盤は下方に変位しようとするが管は空洞の両端で支えられる形となり、管直上の土柱も下らないので、周囲の地盤は摩擦力を介して土柱にぶら下がる形となり、管に作用する鉛直土荷重は、周囲地盤からの摩擦力を加えた大きさとなる。これはわずかな不等沈下が起きた場合も同様である。右の鉛直土荷重は少なくとも長さ一セソチメートル当たり45.8キログラムと計算される。
つぎに右の鉛直土荷重が地下に埋設された管に作用した場合、管軸方向にどの程度の長さを持つ空洞が発生するとその管の安全性が失われるかを考えると、空洞の発生により、管は空洞両端で支えられ、真中がたれ下つた形状となり、本件油輸送管の長手方向に八メートル程度にわたり管が下方に数センチメートル移動してしまうような著しい地盤のゆるみないし空洞が発生した場合には、管は支点間距離六メートル程度の単純梁で近似しうるような挙動を示し、管に作用する曲げた力は材料の降伏点強度をこえ、管の安全性は失われてしまうのである。
3 原告らは、本件処分の取消しを求める法律上の利益(行政事件訴訟法((以下「行訴法」という。))九条)を有し、原告適格を有するものである。
(一) 行訴法九条の「法律上の利益」を「法律上保護された利益」と解するとしても、それは、公権力行使の根拠法規によつて保護された利益に限定する理由はないのであつて、原告らは本件処分により、憲法上最大の尊重を受けるべき生命・身体・財産に関する権利を侵害されるのであるから、行訴法九条の「法律上の利益」があると解すべきである。
原告適格については、争訟提起可能性を最低限度保証し、もつて処分の適法性を担保し社会的コントロールの道を開いておく必要があり、授益処分については、授益者と相反する利益状態にあり、具体的に不利益を主張する者に出訴権を承認し、また、社会一般に一律かつ広汎な影響力をもつ処分に対しては、これにより事実上最も不利益を受ける社会集団の一員にその集団的利益を主張して出訴することを認めるべきである。本件についてみれば、原告らは、後記(三)のとおり本件処分により被害を受ける高度の蓋然性があるので、被害者あるいは不利益な影響を被る社会集団の一員として原告適格が認められるべきである。
(二) また原告らの利益は本件処分の根拠法規たる法により保護されているものというべきである。
すなわち、法一条は「公共の安全」の確保を基本的目的として掲げているが、同時に電気工作物の危険性に着目し、「公害の防止」を図ることを目的としており、公害による国民の生命、身体、財産に対する危害を防止することを根本理念としている。また、法四一条三項二号は電気工作物の設置又は変更の工事の認可要件として、「その電気工作物が第四十八条第一項の通商産業省令で定める技術基準に適合しないものでないこと。」とし、法四八条二項一号は、同条一項の通商産業省令は、「電気工作物は、人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないようにすること。」によらなければならないとしている。ここに「公害」、「人体に危害」、「物件に損傷」を与えるのは、電気工作物の周辺住民に対してであるから、法四一条は、国民の個別具体的権利を保護法益としていることは明らかである。またそもそも「公共の安全」は、周辺住民の生命、身体等の安全と別個に存在するものではなく、周辺住民の生命等の安全確保を通じて初めて確保されるものである。このように「公益」とされるものについても、個人的利益の集積やこれに還元できるものは、「公益」と同時に個人的利益も保護しているものと解すべきである。
(三) 本件処分自体は原告らの権利・利益に対する危険の受忍を強制するものでなく、公定力を有しないとしても、原告らが原告適格を有しないとすることはできない。すなわち、処分によつて権利の設定を受けた者が当該処分につき「本来予想された方法」によりその権利を実現する場合、これにより第三者の権利・利益が侵害されるときは、右権利・利益の侵害も結局右処分によつて生ずる侵害に外ならないと解すべきところ、原告らは、北電が本件処分によつて設定を受けた権利を「本来予想された方法」により実現する本件油輸送管設置工事により権利・利益の侵害を受けたのであるから、原告適格を有するのである。
また、民事訴訟と行政訴訟とは、前者では原告らの権利・利益の侵害が、後者では処分の法適合性が審判の対象であり訴訟物が異なるから、処分に伴う権利の行使につき民事訴訟の差止めを求めることができるからといつて処分取消訴訟を提起しえない理由はない。
更に、安全管理の行政過程が各段階ごとにわけられ、一連の行政手続を形成し、後続処分は先行処分を前提として構成され、先行処分に本来後続することが予定されている場合は、後続処分の効果による権利・利益の侵害あるいは後続処分によつて初めて発生する利益の侵害も先行処分の法的効果と考え、先行処分を争う法律上の利益となると考えるべきであつて、かく解することにより、紛争の根源的解決を図り、既成事実の積み重ね、無駄な投資の防止を図ることができるのである。
本件処分は本件油輸送管の運転を本来予定してされるものであり、その安全審査等に過誤があればこれに基づく本件油輸送管の運転により原告らの利益が侵害されるおそれがあるのであるから、原告らには本件処分の取消しを求める法律上の利益がある。
(四)(1) 原告らはそれぞれ肩書住所地に居住する者であるが、本件油輸送管の埋設により①輸送管の破損・漏洩に基因する、ア爆発・火災による身体・財産に対する被害(直接的な爆発・火災による被害と、河川・道路を重油が流れることによる延焼等の被害とがある。)、イ飲料水汚染による被害(湧水・浅井戸の汚染による被害と、深井戸汚染による上水道汚染の被害とがある。)、ウ地下水汚染、土壌汚染による農業被害、エ重油の海への流入による漁業被害を受ける、②油輸送管の埋設自体に基因する、ア道路の陥没、亀裂などの被害、イ地下水脈の変化による被害(地下水の枯渇による飲料水・農業用水の変化、土壌湿地化に伴う農業上の被害、環境変化による不測の被害)、ウ土中温度上昇による農業被害、エ爆発等に対する不安感等による精神的・健康的被害を受ける、③本件発電所の操業に基因する、ア大気汚染による被害、イ温排水による漁業被害を受けるおそれがある。
(2) 右被害のうち、①の本件油輸送管が破損し重油が漏洩するおそれのあることは、2(五)で詳述したとおりである。
(3) ②アの道路の被害について
道路の被害は大別すると、陥没・地下湧水・亀裂に区分できるが、これは土質の精密な分析・地下流水の調査を行わず、杜撰な工事をした結果であり、このままの状態で放置するなら、道路の大規模な陥没等により本件油輸送管の折損等が惹起される可能性が高い。すなわち、これらの被害は、将来的な本件油輸送管の破損・漏洩の被害発生の可能性を示す徴表となるものである。
ア 道路の陥没
和五郎、館山道路道各二箇所、国道三七号線、竹呂原・西六号線、館山下・土地改良区各一箇所に生じた。
イ 道路の亀裂
道々東関内伊達紋別停車線三箇所、館山下、館山道、今田宅前、西一号線・清住各二箇所、石川町室蘭市道・弄月川付近道路、黄金一号線・大谷地、黄金一合線・南黄金川、稀府二〇号線・岩根川付近各一箇所に生じた。
ウ 地下水の湧出
石川町国道線、北黄金地域、和五郎道路、清住地区、稀府四号線・八号線の交又部の各一箇所に生じた。
(4) ②イの地下水脈の変化について
本件油輸送管の経路のほとんどは地下水位が極めて高いところであり、延長二五キロメートルの八〇パーセントほどは二メートル以内にあり、また湧水も多数存している、かかる地域に本件油輸送管を設置することにより、地下水の流れを寸断し、変化させ、現在の地下水・湧水を枯渇させ、一方では地下水を地表にあふれさせ、土地の湿地化を招くこととなる。現に本件油輸送管の設置のための掘削工事では大量の出水があつたのである。また、右埋設工事は、地下水位の高い所では埋設場所の両端に鋼矢板を打ち込み地下水脈・地下水盆を遮断して地下水の浸透を防ぐ工法がとられたが、これにより鋼矢板の外側の地下水位は上昇し、地表へあふれ出す危険性が高く、とりわけ清住地区のごとく地下水位の極めて高い所では、相当程度の土地が湿地化することとなるのである。
(5) ②ウの土中温度上昇による農業被害について
本件油輸送管では、輸送にあたり重油が常時摂氏六〇度に、異常時でこれ以上に加温されるので、周囲の土中温度を上げ、農作物等に悪影響をもたらす。
(五) これらの被害を原告ら各人ごとに具体的に述べれば次のとおりである。
(1) 原告正木洋は、上水道を利用していて、四(1)掲記の被害のうち、農業上・漁業上の被害、浅井戸汚染にらる飲料水被害等を除くすべての被害を破るおそれがある。
(2) 原告佐々木弘は、帆立貝の養殖等の漁業を営み、上水道を利用しており、前記被害のうち、近隣を流れ本件油輸送管が横断する牛舎川を媒介とする火災時の延焼、上水道汚染、海洋汚染による漁業被害、本件発電所の操業による被害を被るおそれがある。
(3) 原告斎藤稔は、上水道を利用しており、付近を流れ本件油輸送管を横断する紋別川、気門別川を媒介とする火災のおそれ、上水道汚染、発電所操業による大気汚染等の被害を受けるおそれがある。
(4) 原告高橋満、同野呂儀男、神山豊美は漁業を営むものであり、海岸への油流入等の汚染、本件発電所の温排水等により漁業上の被害を被るおそれがある。
(5) 原告井上康男、同上田稔は、本件発電所の操業による大気汚染により健康上の被害を被るおそれがある。
二 本案前の申立ての理由
1 原告らには本件処分の取消しを求める法律上の利益がなく、原告適格を欠くものである。
一 取消訴訟は、行政庁の違法な行政処分によつて侵害された権利・利益の回復・救済を図る制度であるから、行訴法九条にいう法律上の利益を有する者とは、当該行政処分により自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され又は侵害されるおそれがあり、その取消によつて、これを回復すべき法律上の利益をもつ者に限られるべきである。
そして右にいう法律上保護された利益の内容及びその有無は、当該行政処分の根拠となつた実体法規の保護目的、すなわち、それが私人等権利主体の個人的利益の保障を目的とするか、一般公衆の利益の保護を目的とするかによつて決せられるものというべきである。
行政処分の直接の相手方ではない第三者の訴えの利益については、当該行政法規の趣旨、目的に判断の基準をおき、第三者のために法律が特に保護している利益を無視して行政処分がされたときのみ当該処分の取消しを求める利益があるものと解するのが相当である。
したがつて、原告らに本件処分の取消しをもとめる原告適格を認めることができるかどうかは、本件処分の根拠となつた法四一条の解釈いかんによることとなる。
(二) 法四一条一項の規定に基づく認可処分の保護法益
(1) 法は、電気事業が国民生活に不可欠のエネルギーを供給する極めて公益的性格の強い事業であることからその事業運営の適正化の観点から所要の規制措置を講じるとともに、電気工作物に係る公共の安全を確保する観点から、その工事・維持・運用を規制することを目的として(法一条)、以下述べるような極めて詳細かつ段階的な規制を施している。
ア まず、電気事業を営もうとする者は、氏名等法四条に定める事項を記載した申請書を被告に提出し、法三条一項に基づく被告の許可を受けなければならない。
イ 右の許可を受けた者が、法二条七項に定める電気工作物を設置し、又は変更する場合は、その基本となる事項(本件のような発電用電気工作物にあつては、その設置の場所、原動力の種類、周波数及び出力(法六条二項四号イ))について、あらかじめ法八条一項に基づく被告の許可を受けなければならない。
ウ 更に、右設置又は変更に係る工事の実施に当たつては、その工事の計画について、法四一条一項に基づく被告の認可を受けなければならない。
エ 右認可をうけた電気工作物を使用するに当たつては、それに先立ち法四三条一項に基づく被告の検査に合格しなければならない。
オ そして、その使用開始後においても、電気事業者は、一定の電気工作物については所定の時期ごとに法四七条に基づく被告の行う検査(定期検査)を受けなければならず、また法四八条に基づいて電気工作物を技術基準に適合するよう維持し、かつ被告に届け出た保安規程を遵守すること等が義務づけられている。
(2) このように、本件処分の根拠法規である法四一条一項は、電気事業を営む者が、一定の電気工作物の設置又は変更の工事を行う場合に、その工事に先立つて、その工事の計画について被告の認可を必要とするものであるが、法は、被告が右認可を行うに当たつては、右工事の計画が法三条一項又は八条一項の許可を受けたところによるものであるかどうか(法四一条三項一号)、その電気工作物が法四八条一項の通商産業省令で定める技術基準に適合しないものでないかどうか(同二号)、電気の円滑な供給を確保するために技術上適切なものであるかどうか(同三号)などを判断すべきこととしているにすぎない。
そして、法四一条三項三号の要件への適合性が電気の円滑なる供給能力を確保するという公共の利益の確保にあることは極めて明白であり、また、同項一号の要件への適合性についても、法三条一項又は八条一項の許可を行うに当たつての判断事項は、供給区域や原動力の種類、周波数及び出力等といつた基本的かつ公共的な事項である(法四条一項)とともに、その許可基準も、需要への適合性や供給能力の確保等公共の利益確保に必要なものばかりであつて(法五条)、何ら個人の具体的利益を保護する趣旨を含むものではないことは極めて明白である。
次に、法四一条三項二項の要件への適合性についてみれば、技術基準は、電気工作物による人体への危害及び物件の損傷を防止するとともに、電気工作物の損壊による供給能力への支障を防ぐように定められる(法四八条二項)必要があるが、その規制の目的が、「電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによつて、公共の安全を確保し、あわせて公害の防止を図ること」という法一条後段の公益の実現にあることからすれば、右人体への危害と物件の損傷防止は、いずれも公益保護の一環としてのそれであつて、個々の国民の具体的利益を保護する趣旨ではないというべきである。
ちなみに、電気事業法関係政省令においても、法四一条一項に基づく認可が関係住民の利益を保護する目的を有することを窺わせるような規定はない。
(3) 以上のとおり、法四一条一項に基づく被告の認可は公益の実現を目的とするものであり、原告らが本件処分の取消しによつて仮に何らかの利益を享受するとしても、それはすべて被告が法四一条一項の適正な運用によつて実現される公益の保護を通じて国民一般が共通して享受する一般的抽象的な利益にしかすぎないのであつて、権利主体の個人的な利益を保障することを目的とした法規により保護される法律上の利益ではない。
したがつて、原告らはいずれも本件処分を争うについて、原告適格を有しないといわざるをえない。
(4) なお原告らは、原告適格について、処分の適法性を確保し社会的コントロールの道を開いておく必要があると主張するが、取消訴訟の本来的機能・目的は当該行政処分によつて生じた違法状態を排除し、もつて国民の個別具体的な権利・利益を救済することにあるのであつて、適正な行政の確保は取消訴訟を契機として、その結果なされるものにすぎない。このような適正な行政の確保という、いわば反射的・付随的な作用を強調して広く取消訴訟提起の途を開くことは、法律に定める一定の場合に限り一定の者のみが民衆訴訟を提起できるとしている行訴法の趣旨に背馳するものである。また、具体的事実に実体法規を適用して個々人の権利・利益の実現に奉仕するという裁判の本来的機能からも、原告ら主張のように司法権に対し行政への介入的・統制的機能を期待すべくもないのである。
(三) 本件処分の公定力と原告適格
本件処分は、原告らに生命・身体、財産に対する危険の受忍を強制するものではなく、この面において公定力を有するものではないから、原告らは原告適格を有しない。
すなわち、行政処分は公定力を有するがゆえに、仮に行政処分が違法にされた結果、その権利・利益を侵害されたとしてこの権利・利益の侵害を排除するためには、公定力を排除せねばならず、かかる必要性から公定力の排除をするために認められた訴訟形態が取消訴訟である。
したがつて、取消訴訟という特殊の訴訟を提起する者は、当該行政処分の公定力によつて権利・利益の侵害の受忍を強制される者でなけれはならない。
一方、このような行政処分の公定力によつて権利・利益の侵害の受忍を強制されない原告らのような者については、あえて取消訴訟のような特殊の訴訟形態を認める必要はなく、認可処分確定後でも設置者との間での私法上の救済手段により、その権利救済を図ることは十分可能であり、かかる意味からも、原告らの原告適格は否定されるべきである。
特に、原告佐々木弘、正木洋、同斎藤稔は既に本件訴訟提起に先立つて、昭和五二年九月六日、札幌地方裁判所に本件油輸送管に関し、本件訴訟における違法事由とほぼ同一の違法事由を主張して北海道知事を被告とする伊達発電所移送取扱所設置許可処分(消防法一一条一項)取消請求訴訟を提起しているのであるから、本件訴訟は、同原告らに対する関係では請求の不要の重複であり、訴えの利益を疑わざるをえない。
2 原告らには本件処分の取消しを求める訴えの利益がない。
(一) 仮に原告らに原告適格が存するとしても、原告らが被ると主張する損害は本件処分の直接の法的効果とはいえず、また、その関連性を肯定したとしても、本件油輸送管は十分な安全性を有し、かつ油輸送管の折損漏洩等により原告らが具体的に右損害を被る蓋然性はないから、原告らには訴えの利益がない。
(二) 本件処分は、本件発電所に関し、被告が法四一条一項に基づき北電に対し行つた都合六回にわたる工事計画の認可の一つにすぎないものであり、1(二)(1)で主張したとおり、法によれば、油輸送管は法四一条一項の認可を得た後、本件処分の外に法四三条一項の検査を受け、これに合格して初めて実際に使用できるものであつて、原告らの主張する損害は、いずれも油輸送管の使用に係る問題であるから、本件処分によつて生ずる損害とは別個の問題であり、直接の効果として把えることができないものである。
なお、原告らは、権利の設定を受けた者が当該処分につき「本来予想された方法」によりその権利を実現する場合、これにより侵害された第三者の権利・利益は右処分によつて生ずる侵害に外ならないと解すべきであると主張するが、本件処分は本件油輸送管の「運転」すらその内容に含むものではなく、まして周辺住民に対し、その権利・利益を法的に制限し、危険の受忍を強制する効果を有するものではないから、原告らの主張は失当である。
(三) 本件油輸送管は、十分な安全性を有するよう適切に設計・施工・保守・運用がなされているから破損などは起りえず、また油輸送管の埋設により地下水脈が変化することもなく、原告らに被害が及ぶ蓋然性が存しないから、原告らに訴えの利益がないことは明らかである。
(1) 本件油輸送管の概要
本件油輸送管の輸送油種は重油、輸送量は一時間当たり二八〇キロリットル(摂氏一五度)、輸送距離(油輸送管の延長)は二万五六四九メートル、輸送圧力は平方センチメートル当たり27.5キログラム(最大常用)、温度は摂氏六〇度未満、油輸送管始点、発ターミナルは室蘭市陣屋町一七三番地、同終点、着ターミナルは伊達市長和町一六九番地の一である。
(2) 本件油輸送管の保安措置
ア 本件油輸送管の本管として使用する鋼管の強度、油輸送管の構造及び設置方法並びに保安設備等
本件油輸送管は、強じんな鋼管を本管として使用する等、十分な強度を有するよう設計された構造のものを適切な方法で設置するとともに、必要な保安設備を設けるものであるから、その構造・設備において十分な安全性を有する。
① 油輸送管の本管として使用する鋼管の強度等
本件油輸送管の本管として使用されている鋼管は、アメリカ石油協会(API)規格五LX(ハイテストラインパイプ)―X五二、X五六及びX六〇でこれは特に溶接性の良好な材料として開発され、欧米で広い使用実績をもつもので、その性能には十分信頼性が認められている。また、その強度についても、引張り強さ、降伏強さともに、我が国において圧力用配管として一般に用いられている日本工業規格(JIS)の「圧力配管用炭素鋼鋼管」(G三四五四)を大きく上回つている。更に本管の強度計算に当たつて、鋼管の降伏強さに一定の余裕をとり、その値を許容応力度と定め、油輸送管に作用する最大応力が右値を超えないよう材料を選定している。
したがつて、本件油輸送管は、常時作用する荷重、すなわち内圧、土圧、自動車荷重、温度変化の影響等に、一時的に作用する荷重である地震の影響あるいは他工事による影響等を加えても十分耐えうるよう設計されており、安全性は十分に確保されている。
② 油輸送管の構造
本件油輸送管の構造は、右鋼管を本管として用い、その表面を防錆塗料で塗装し、外周を水を通しにくくかつ断熱効果のある硬質発泡ポリウレタンフォームで覆い、更にその外側を防水性、耐久性、耐腐食性に優れたガラス繊維強化塩化ビニール(FRV)で外装した二重の管構造となつている。また、本件油輸送管が市街化区域の指定を受けている地域、あるいは地盤調査の結果から万一の漏洩時には拡散が比較的大きいと判断される地盤の箇所に埋設される場合には、FRVに代えて本管と同等の強度を有する鋼管をもつて外装する二重の管構造としている。
なお、道路、線路、河川を横断する箇所等においては、堅固で耐久力のあるさや管(鋼管)内に油輸送管が設置されている。
③ 油輸送管の設置方法
溶接
本件油輸送管の本管の接合は、技術的に確立されて最も信頼できる被覆金属アーク溶接により行われており、溶接部の強度については、溶接施工法試験、シャルピーの衝撃試験等により、母材である鋼管部と同程度であることが確認されている。
油輸送管の埋設方法
本件油輸送管の埋設に当たつては、油輸送管が連続して均一な地盤により支持されるようにその周辺を置換砂により、更にその上層部を大礫を取り除いた掘削土を用いて埋め戻し、また、埋戻しに当たつては三回以上転圧をし、在来地盤と同程度になるように締め固めを行つている。
特に、地下水位の高い箇所においても、置換砂の締め固めを十分行えるよう、以下のとおり適切な措置が講じられている。
a 地下水の処理
掘削溝の崩壊を防ぐための土留は、通常当矢板又はH形鋼横矢板を用いているが、地下水位が高い箇所においては、鋼矢板を用いて掘削溝への地下水の浸透をできるかぎり防止する方法が講じられている。更に、右方法によつても地下水の浸透を十分防止できない場合には、所定の掘削断面外に有孔管又は栗石を敷設し、溝内の地下水を会所部(掘削溝の末端部分)に集め、ポンプにより排水処理をしている。なお、油輸送管埋設工事において、埋戻しなど、掘削構内で作業を行う場合には溝内の排水処理が実施され、その他の溝外で作業を行う場合あるいは作業中断時などにおいては地下水への影響を極力緩和するため、ポンプによる排水は中止されている。そして、排水処理に用いた有孔管については、排水作業終了時に管端が密閉され、栗石については、砂質土を用いた遮水壁を設けるなどの措置が講じられ、いずれも排水路としての機能が廃止されている。
b 掘削溝底の処理
掘削溝内に侵ママ透する地下水などは、右のとおり排水処理されるが、溝底が湿潤で置換砂の締め固めが十分にできない箇所については、軟弱な部分を除去し、小径の切込砕石又は切込砂利を一〇センチメートル程度の厚さに敷き均して転圧を行い、溝底の安定が図られている。
c 埋戻し、転圧
本件油輸送管埋設工事においては、油輸送管を設置する部分に置換砂を敷き均して転圧し(地下水の状況などによつては、置換砂を詰めた砂袋(管床工)を二列に並べ、その間隙に置換砂を填充し転圧する)、十分締め固めた後、油輸送管を右置換砂に設置し、管周囲に置換砂を三層に分けて敷き均し、各層ごとに十分に転圧を行つて締め固められている。右施工により、外径約四〇センチメートルの油輸送管は、幅1.2ないし1.4メートル、厚さ約九〇センチメートルの置換砂層内に均一かつ連続した状態で支持されることになる。更に、置換砂の上部は、大礫を取り除いた掘削土により埋戻し、厚さ約三〇センチメートルごとに置換砂と同じ方法により締め固められている。また北電において、置換砂及び埋戻土の締め固め状況について、各工事施工箇所ごとに現場密度試験を実施し、その締め固め状態を確認している。なお、右埋戻作業は、工事の工程、手順あるいは天候などにより、一時中止され、それに伴い排水処理も中断されることから掘削溝内に地下水などが滞留することもあるが、北電は、作業を再開するに当たつては、十分に排水処理を行うとともに置換砂の締め固め状況を確認し、必要に応じて再度転圧が行われている。
油輸送管の設置方法
a 一般埋設部
本件油輸送管の約七〇パーセントは、市道等の道路用地内に敷設され、開削工法により用地境界から1.5メートル以上離れた地表からおおむね1.5メートル以上の深さの位置に埋設されている。
b 地上配管部
発・着ターミナル内の油輸送管は、地上にコンクリート架台を設け、その上に設置されている。
c 道路・線路横断部
地下に敷設されたさや管内に設置されている。
d 河川横断部
専用橋による場合は、橋りよう上に取り付けたさや管内に、伏越(河床下横断)による場合は、計画河床高から約ニメートル以上の深さの位置に埋設したさや管内に、それぞれ設置されている。
e トンネル部
﨑守トンネル内では一般埋設部と同様に、館山トンネル内では地上配管部と同様に、それぞれ設置されている。
④ 保安設備等
保安設備の概要
本件油輸送管の保安設備として、a油輸送管の運転状態を監視し、送油ポンプ等の作動状態、圧力等に異常が生じ、あるいは二五ガル以上の地震を感知した場合に警報を発する運転状態監視装置、b圧力安全装置等の保安設備の制御回路が正常なことが確認されなければ送油ポンプが作動せず、また、規定値以上の地震の感知、漏油の検知等保安上異常な事態が発生した場合、送油ポンプ、緊急遮断弁等が自動又は手動により連動して速やかに停止又は閉鎖する安全制御装置、c圧力安全装置として、発ターミナル内緊急遮断弁の上流側に設置され、油輸送管内の本管内の圧力が最大常用圧力の1.1倍を超えないように制御する異常圧力放出装置、送油ポンプからの吐出圧力が最大常用圧力を超えないよう制御する圧力制御装置、d漏洩検知装置として、油輸送管の本管系(本管並びにこれと一体をなすポンプ、弁及びこれらの付属設備の総合体)内の重油の送油流量及び受入流量の差を測定することにより自動的に漏洩を検知する流量比較装置、油輸送管経路の九か所に設置された圧力計により測定した本管内の圧力と定常運転時の当該箇所の圧力を比較して、自動的に漏洩を検知する圧力パターン検知装置、油輸送管の運転停止中に重油の温度変化による体積の変化を測定して漏洩を検知する加温流体漏洩検知装置、右各検知装置で検知できない微少な漏洩を油の電気抵抗を利用して検知する微小漏油検知装置、専用隧道等において可燃性ガスを検知するガス検知装置、緊急遮断弁ピット内等に設置する液面レベル計により漏洩を検知するレベル検知装置、e地震、漏油等の異常事態が発生した場合、直ちに本管内の送油を遮断する緊急遮断弁、f地震発生時、その加速度を感知して送油ポンプの停止、緊急遮断弁の閉鎖等を連動して行う感震装置及び加速度を記録する強震計、g本管等の鋼管部の腐食を防止する電気防食装置、h他工事等による油輸送管の損傷を防止するための注意表示等の標識が設置され、また、i消火活動用資機材等を備えた資機材倉庫・置場を発・着ターミナル及び経過地中間的に設置し、化学消防車等発・着ターミナルに備えている外、j漏洩拡散防止のための設備(FRV、鋼管外装管、さや管)、不等沈下測定設備等を設置している。
安全制御装置
本件油輸送管には、右のとおり各種の保安設備が設置されており、異常事態が発生した場合、安全制御装置を介し、事故の発生あるいは拡大を防止するため、次の三通りの方法で機能するものである。
a 緊急遮断(1)
感震装置が八〇ガル以上の地震を感知した時、流量比較装置及び圧力パターン検知装置が漏洩を検知した時等は、直ちに送油ポンプの停止及び全緊急遮断弁の閉鎖等を自動的に行い、油輸送管の運転を停止する。
b 緊急遮断(2)
感震装置が四〇ガル以上の地震を感知した時、微少漏洩検知装置が漏洩を検知した時等は、送油ポンプの停止、発ターミナルの緊急遮断弁の閉鎖を自動的に行つて油輸送管内の圧力を下げた上で、他の緊急遮断弁を閉鎖して運転を停止する。
c 保安停止
通信制御装置の故障等、油輸送管の本管系の事故ではなく、燃料油が外部に流出するおそれのない事態が生じた時は、着ターミナル緊急遮断弁の閉鎖、発ターミナル緊急遮断弁の閉鎖、送油ポンプの停止の順で自動的に運転を停止する。
以上の外、圧力が最大常用圧力の1.05倍を超えた時、感震装置が二五ガル以上の地震を感知した時、送油ポンプ関係に異常が生じた時等は、制御室の警報装置が作動して運転員に注意を促し、運転員は、必要に応じて緊急遮断(1)・(2)、保安停止の措置を講ずることとなつている。
イ 本件油輸送管の保守・運用
本件油輸送管の保守・運用に関しては、北電において運転操作、巡視、点検及び検査、緊急時の応急措置等を内容とする規程を定め、これを確実に遵守している。すなわち、一日一回以上、油輸送管、保守設備等の巡回、点検を行い、保安設備については、定期的にその機能を検査しており、特に送油停止中(一日一〇時間)には、加温流体漏えい検知装置により油輸送管からの漏洩の有無を点検している。また、緊急の事態に迅速かつ的確に対応しうるようその体制(自衛消防組織)を確立し、応急処置、消火のための資機材の備蓄、整備、定期的な防災訓練等を実施しているものである。
ウ 以上のとおり、本件油輸送管については、消防法の技術上の基準をいずれも十分満足しており、したがつて、安全性の確保について現段階で考えられる技術的配慮が十分になされているものである。
なお原告らは、本件油輸送管の埋設自体により地下水脈が変化し地下水の枯渇及びこれに伴う地盤沈下、置換砂の流失による空洞形成が生じると主張し、その場合、本件油輸送管が単純梁として挙動しその結果折損するおそれがあると主張するが、以下のとおり、地盤沈下、空洞形成が生じるとの前提自体失当であるばかりでなく、本件油輸送管の本管として使用されている鋼管は、可とう性に富み、かつ周囲は砂で十分に締め固められ、連続的均一な地盤となつているから固い支点が生ずることはないので、単純梁の式を適用すること自体誤りである。
ア③に主張したとおり、本件油輸送管埋設工事は適切に施工され、置換砂・埋戻土は十分締め固められており、幅1.2ないし1.4メートル、厚さ約九〇センチメートルの置換砂中に外径四〇センチメートルの管が埋設されているにすぎない本件油輸送管の埋設規模等から、大きな広がりを持つ地下水脈が油輸送管の埋設自体により変化することはなく、したがつて、地下水の漏洩、涸渇、地盤沈下など起り得ない
また、右置換砂の締め固めの状態から、置換砂が地下水により移動しうる空隙が油輸送管の埋設箇所に存することはなく、置換砂の流失による空洞形成もありえない。
更に、本件油輸送管埋設工事において使用されている置換砂は粒度調整されていて、ほとんどが粒径一ミリメートル前後であり、最小のものの粒径が0.1ミリメートル程度であり、これが水平流によつて移動を起こし始めるには一日当たり約二六〇メートル(毎秒0.3センチメートル)の流速が必要とされるところ、先に主張した本件の締め固め状態の置換砂中における地下水の移動量は、経路上で勾配の大きな箇所でも一日当たり五〇センチメートル(毎秒0.0006センチメー卜ル)程度と推定されるのであり、置換砂の流出など起こりえず空洞形成もありえない。実際北電においては、昭和五三年一一月本件油輸送管の運転を開始して以来、一日一回以上油輸送管経過地全線にわたり巡視、点検を行つて、埋設部及びその周辺の状況を確認しているが、いずれの地点においても埋設部の地盤沈下など油輸送管に影響を及ぼすような状況は生じておらず、また、経過地上の地点において定期的に実施している沈下測定設備による調査においても、不等沈下などの地盤の変動は認められていないし、原告らが地下水が豊富であると指摘する伊達市道西一号線(清住地区)及び同西一五号線(竹原地区)において、北電が昭和五六年、さや管設置工事を実施した際も、掘削溝内への地下水の浸透は少なく、また置換砂は十分に締め固められた状態で維持されており、地下水による影響は何ら認められなかつたのである。
また、原告らは道路に亀裂、陥没等が生じ、これらは本件油輸送管の破損・漏洩の徴表をなすと主張するけれども原告らの主張する亀裂等は、いずれも油輸送管の埋設自体とは無関係なもの(工事用重機、降雨、融雪によるもの)に基因するか、油輸送管埋設工事途中のもの等であつて空洞形成等によるものではなく、その後適切に施工されているものである。
(3) 本件油輸送管の安全対策
ア 地震対策
① 耐震設計
本件油輸送管においては、可とう性に優れた鋼管を本管として使用するとともに、その鋼管を保温材を介してFRV又は鋼管で外装した二重の管構造としている。FRV外装管については、油輸送管にかかる外力の一部に、鋼管外装管については右外力のすべてに耐ええるものであるが、耐震設計に当たつては、右FRV外装管及び鋼管外装管を無視して油輸送管にかかるすべての荷重を本管のみで受け持つものとして、油輸送管に常時作用している荷重である内圧、土圧、自動車荷重、温度変化の影響等に一時的に作用する地震の影響によつて生ずる外力を加えても十分に耐ええるように本管の強度を決定しているものである。
また、右設計に際して北電は、各種地盤、地質調査結果、既存の調査資料をもとに本件油輸送管経過地の地盤特性を把握した上、過去において伊達地方に最も大きな影響を及ぼした明治四三年の有珠山火山活動に伴う地震の本件輸送管に対する影響を検討した結果、同程度の地震に対しても十分に耐えうることを確認しているのあり、伊達、室蘭地方に比べ地震動の影響の大きい、告示によるA地域(北海道東部の太平洋岸等)を対象として仮定した条件下においても、十分に安全性が確保されている。
② 地震発生時の保安対策
本件油輸送管においては、地震に対する保安設備として、発・着ターミナルにそれぞれ地震装置及び強震計が設置されており、発・着ターミナル及び油輸送管経路には、九箇所に緊急遮断弁が設置されている。そして、右感震装置が二五ガル以上の地震を感知した場合、制御室の警報装置が作動して運転員に注意を促し、状況に応じて速やかに送油の停止等の必要な措置が講じられ、四〇ガル以上の地震を感知した場合には前記緊急遮断(2)の措置が、八〇ガル以上の地震を感知した場合には、前記緊急遮断(1)の措置が、それぞれ講じられる。
また、地震により送油を停止した時には、油輸送管、保安設備等の巡視、点検が行われ、八〇ガル以上の地震を受けた時には、更に耐圧試験を実施して設備の安全が確認されるものである。
③ 地震時の砂質地盤の液状化対策
北電において、本件油輸送管経過地上の砂地盤について液状化の検討を行つた結果、大地震時には、館山トンネルの出口から着ターミナルに至る地域が液状化の可能性も考えられることから、鋼管杭による液状化対策を施している。右鋼管杭は、地盤が液状化したときに油輸送管が浮き上がるのを防止するための杭であり、この杭はN値がおおよそ五〇以上の地盤に支持されていることから、液状化対策として十分なものであり、地震時の液状化による油輸送管の折損のおそれは存しないものである。
イ 他工事対策
水道管等の地中埋設管の事故のうち、他工事によるものは建設機械を原因とする場合が多い。そこで本件油輸送管においては、これを防止するため、市街地の道路下等に埋設する場合には、さや管又は鋼管外装管が使用され、あるいは、油輸送管直上三〇センチメートルの位置に鉄筋コンクリート板が敷設されている。また、油輸送管全線にわたり、同管直上に注意表示のシートが埋設されている外、各種標識が設置されている。
本件油輸送管においては、通信用ケーブルが同管直上の三〇センチメートルの位置に埋設されており、同ケーブルが他工事等により断線した場合には、緊急遮断(1)の措置が講じられる。また、油輸送管全線にわたり一日一回以上の巡視を行い、その近傍における他工事の有無を遅滞なく確認するとともに他工事に立ち会うこととしており、他工事による事故を未然に防止するため万全の対策が講じられている。
ウ 防食対策
本件油輸送管においては、本管の外面を高度の防食効果を有するエポキンママ樹脂で塗装し、更にその外側を吸水性の非常に小さい硬質発泡ポリウレタンフォームの保温材及び耐腐食性に優れたFRVの外装材で被覆されており、これらが互いに接着されて一つの構造体となつていることから、優れた防食効果を有するものである。また、右対策に併せて電気防食措置(流電陽極法)も施されており、本管内面についても腐食抑制剤の使用により防食に万全の対策が講じられているものである。
なお、鋼管外装管、さや管についても、ポリエチレンライニングあるいは電気防食措置が施されている。
エ 誤操作防止対策
本件油輸送管においては、安全を確認するための条件が満たされなければ送油ができないよう制御されている。すなわち、緊急遮断(1)、(2)、保安停止の要因が発生してしないこと、運転操作手順に誤りがないこと、漏油を検知していないこと、電気事故が発生していないこと等多くの項目が確認されなければ、送油ポンプは作動しないこととなつている。更にコンピューターが運転員の補助として全体の監視、操作チェックを行つている。
オ 漏洩拡散防止対策
① 緊急遮断弁
九箇所に設けられている緊急遮断弁が漏油検知時には、速やかに閉鎖されてラインの区分が行われ、漏洩を極力防止するとともに復旧を容易にする。
② 外装管による拡散防止
本件油輸送管は、FRVあるいは鋼管による二重の管構造となつており、更に保温層中には、微少漏洩検知用の油道管及び油溜が設けられている。したがつて、万一漏油が生じたとしても、外装管内側あるいは、油道管に沿つて軸方面に拡散することとなり、油道管内に設置された油検知器により検知して、送油が停止されるものであつて、漏油を各部に流出させることはない。
なお、地盤調査の結果から万一漏油が生じた場合その拡散が比較的大きくなると判断される地盤の箇所については、FRV外装管に代えて鋼管外装管が使用されている。
③ さや管及びピットによる拡散防止
本件油輸送管が道路、河川、線路等を横断する場合には、さや管内に設置された上、その両端は密閉されている。右さや管は、外部からの荷重に十分に耐えうるように設計されており、同箇所において万一漏油が生じた場合においても外部への拡散を防止する機能を有するものである。特に河川横断部のうち専用橋により河川上方を横断する箇所においては漏えい拡散防止ヒット(貯留槽)が設置され、さや管内の漏油を同ピットに導入する構造になつている。
また、右ピット内には、レベル計およびガス検知装置が設置されており、油の流入を検知することにより、送油ポンプの停止、緊急遮断弁の閉鎖等の措置が講じられるものである。
カ 地盤沈下対策
本件油輸送管経過地においては、地盤・地質の調査結果及び埋戻し施工状況等からして、油輸送管に悪影響を及ぼすような地盤の不等沈下等が生ずるおそれはないが、交通量が多く、盛土した国道を横断する箇所、国道と並行する箇所、油輸送管埋設上部を盛土した箇所等一〇箇所については、念のため沈下測定設備が設置され、定期的に測定がなされている。
(4) 本件油輸送管の運用状況
ア 本件油輸送管においては、消防法及び法所定の検査に合格して昭和五三年一一月本格的な運転を開始して以来、適切な運用がされており、油輸送管の破損、漏洩はもとより油輸送管埋設自体による被害等も何ら生じていない。また、現在までに二回にわたり本件油輸送管、保安設備等について、消防法所定の保安検査が実施され、いずれもその安全性が確認されている。
イ 北電は、本件油輸送管の運転を開始した後、一日一回以上経過地全線にわたり巡視を行つて、埋設部及びその近辺の状況を確認するとともに、一〇箇所に設けられた沈下測定設備により地盤沈下の有無・程度を定期的に調査しているが、いずれの地点においても不等沈下等の油輸送管に悪影響を及ぼすような地盤の変動は認められていない。
また、本件油輸送管工事が行われていた昭和五二年八月、有珠山が噴火し、地震が頻発したが、本件油輸送管経過地上において、地盤の沈下・隆起等は生じておらず、工事完了部分の油輸送管に悪影響を及ぼすような事態は何ら生じていない。
ウ 本件油輸送管の運転開始以来、昭和五六年一月二三日、同年三月一二日、同五七年三月二一日に八〇ガル以上の地震を感知したが、本件油輸送管には何ら異常は生じていない。
(四) また原告らの主張する道路の被害なるものは、いずれも本件油輸送管の埋設自体とは無関係な工事用重機・降雨・融雪等に起因するか、本件油輸送管埋設工事途中のもの等であり、原告らが主張する空洞形成等によるものでないことは先に述べたとおりであり、本件処分に基づく本件油輸送管の埋設工事は、昭和五二年六月一三日に着工し、同五三年九月二二日にはすべて完了しているので、右埋設工事に伴う工事被害(工事中地下水が地表にあふれ出ることにより土地が湿地化するとの被害)を訴えの利益とする主張は、その前提自体消滅したものというべきである。
(五) 以上のとおり、本件油輸送管は、十分な安全性を有するよう適切に設計、施工、保守、運用がされていて、破損、漏洩による爆発、火災による生命、身体、財産の被害発生の蓋然性はないが、更に原告ら各自が被ると主張する具体的予想被害をみると、以下のとおりこれらが発生する蓋然性はなく、原告らに訴えの利益がないことは明らかである。
(1) 原告正木は、伊達市東浜区に居住するものであつて、その住居は本件油輸送管から約1.9キロメートルの距離にあり、また、同原告が勤務する北海道立伊達高等学校についても、本件油輸送管に最も接近する箇所で約三〇〇メートル離れている。更に、右付近の油輸送管の埋設深さは1.8メートルと通常の一般埋設部より深く、また構造においても、本管と同程度の強度を有する鋼管により外装した二重の管構造としており、他工事、地震の影響等の外力に対し十分の安全性を有するよう配慮されている。
したがつて、本管の強度、各種保安措置、安全対策をも併せ考えれば、他工事等の原因により、本件油輸送管が損傷を受けるおそれは存しないが、万一本管から漏油が生じたとしても、速やかに送油が停止されるとともに漏油は鋼管外装管によつて外部への流出が防止されるものである。
また本件油輸送管で輸送するのは重油であり、現在輸送されているC重油は流動点が高く、常温でアスファルト状に固まり、揮発成分がほとんどなく、容易に引火爆発することがないという性状を有していること、更には、右埋設深さをも考慮すると、万一本管及び鋼管外装管の双方が破損し、漏油が土中に流出したと仮定しても、その拡散範囲は極めて小さく、漏油が地表にまで流出することはなく、仮に地表にまで流出したとしても、その流出量はわずかであり、爆発、火災を到底起こしえないものであるから、爆発自体による直接的な被害あるいは漏洩重油に起因する延焼等の被害を同原告に与えることなどありえないことである。
また、「上水道汚染による被害」についても、北電は、告示二四条に基づいて適切に油輸送管を設置しているものであつて、重油が漏洩することはなく、万一、外部に重油が漏洩したとしても、少量である上に、その性状から、上水道源を汚染する可能性は極めて少ないものであるから、右被害が発生する蓋然性は存しない。
(2) 原告佐々木、同斎藤の主張する牛舎川、紋別川及び気門別川においては、本件油輸送管は、専用橋により横断しているものであるが、右横断部は、FRVによる二重の管構造を有する油輸送管をさや管(鋼管)内に設置するいわゆる三重の管構造となつており、さや管の両端は閉塞されている。また、右さや管は、パイプにより地下に設けられた漏洩拡散防止ピットに接続されている。
したがつて、本管の強度、各種保安措置、安全対策等から本管が破損し、更に外装材も破損するおそれは存しないが、万一本管及び外装材が破損し漏油が生じたとしても、右さや管からパイプを通して漏油が右ピット内に導かれ、漏油を外部に流出させることはない。
又、原告佐々木は、牛舎川横断箇所から約九〇〇メートル、原告斎藤は、紋別川及び気門別川横断箇所から約一九〇〇メートルそれぞれ下流の河岸から六〇ないし三五〇メートル離れた位置に居住しているものであり、輸送される燃料油である前記重油の性状をも考慮すると、万一本管、FRV外装材及びさや管の全部が同時に破損し、漏油が河川内に流入したと仮定しても、右原告両名に被害を及ぼす事態が生ずるようなことなどおよそありえないようはずがない。
「上水道汚染による被害」の蓋然性がないことは原告正木と同様である。
更に「海洋汚染による漁業被害」については、牛舎川等専用橋によつて河川を横断している箇所(合計七箇所)においては、さや管による三重の管構造となつており、更に、右さや管が漏洩拡散防止ピットに接続されていることから、漏油を外部に流出させるおそれはない。シャミチセ川等伏越しによつて河川を横断している箇所(合計二一箇所)においては、河川の将来計画に支障とならないよう埋設深さを十分にとり、さや管を用いてその中に油輸送管を設置し、さや管はその両端を閉塞していることから、油輸送管が破損することはなく、さや管の外に漏油か流出することはない。
また、万一さや管の外部に漏油が流出したとしても、前記重油の性状、各種保安措置等から河川に流出する漏油量は少量となり、更には、オイルフェンス等により速やかに漏油の除去等がなされるものであるから、右被害発生の蓋然性はない。
(3) 原告高橋、同野呂、同神山の主張する海洋への油流入等の汚染による被害発生の蓋然性がないことは原告佐々木と同様であり、原告井上、同上田の主張する健康上の被害は本件発電所の操業によるもので本件処分と関連性がない。
3 原告神山、同野呂の本件の訴えはいずれも出訴期間を徒過している。
取消訴訟は処分又は採決があつたことを知つた日から三箇月以内に提起しなければならないとされている(行訴法一四条一項)ところ、本件訴えが提起されたのは昭和五二年九月一三日である。
ところが、本件処分がされたのは昭和五一年一一月六日であつて、当時新聞等により広く報道されたので原告神山及び同野呂はこれを知つたはずであり、仮にそのころ知らなかつたとしてもその余の原告らが昭和五一年一二月一六日に異議申立てをしたころには当然知つていたものというべく、特に、有珠住民を守る会を代表して昭和五一年九月九日伊達火発反対連絡会の事務局次長に選任された原告神山が本件処分の存在を知らなかつたということは到底ありえないことである。
三 本案前の申立ての理由に対する認否
1 本案前の申立ての理由1は争う。
2(一) 同2(一)、(二)は争う。
(二) 同(三)のうち、(1)の本件油輸送管の輸送量、輸送圧力、発ターミナルの位置は認め、その余は争う。
(三) 同(四)のうち、本件油輸送管の埋設工事が完了したことは認め、日時は不知、その余は争う。
(四) 同(五)のうち、(1)の原告正木の住居及び勤務校と本件油輸送管の距離は認め、その埋設深さ、構造は不知、(2)の牛舎川、紋別川、気門別川において本件油輸送管は専用橋により横断していること及び右横断箇所から原告佐々木、同斎藤の住居までの距離は認め、右横断部での本件油輸送管の構造及びさや管が漏洩拡散防止ピットに接続されていることは不知、その余はすべて争う。
3 同3のうち、本件訴えの提起日、本件処分の日、異議申立ての日及び原告神山が被告主張の事務局次長に選任されたことは認め、その余は争う。
原告神山、同野呂が本件処分の存在を知つたのは、昭和五二年九月初めである。
四 請求原因に対する認否及び反論
1 請求原因1の事実は認める。
2(一) 同2(一)は争う。
本件油輸送管は、法施工規則別表第三の上欄の一、(二)、6の中欄7、(2)の「油又はガスの輸送管」のうち、油の輸送管に該当し、法四一条一項の認可の対象となる電気工作物である。
(二) 同(二)は争う。
電気事業者が電気工作物を変更する場合は、法八条一項の許可及び四一条一項の認可を受けなければならないが、法八条一項の許可事項は、発電用の電気工作物にあつては、その設置の場所等基本的事項に限定されており(法六条二項四号イ)、法四一条一項の認可事項は、右変更に係る個別の発電用電気工作物そのものの工事計画に関するものであるから、その基本となる事項についての変更許可を得ている以上、本件油輸送管のような個別の発電用電気工作物について改めて法八条一項の許可を要しないのである。
(三) 同三は争う。
(四) 同四は争う。
本件油輸送管は、規則及び告示に定められた消防法による技術基準を十分満足させるものである。
(五) 同(五)は争う。
3 同3のうち、原告らが肩書住所地に居住することは認め、その余は争う。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1の事実(本件処分の存在)は当事者間に争いがない。
二そこで、原告らが本件処分の取消しを求める原告適格を有するか否かにつき検討する。
1 行政処分の取消訴訟を提起できる者は、行訴法九条の規定により法律に特別の定めがない限り、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによつてこれを回復すべき法律上の利益を有する者に限られるべきであり、右にいう法律上保護された利益とは、実体法規が私人等権利主体の個人的利益を保護することを目的として行政権の行使に制約を課していることにより保護されている利益であつて、当該係争利益が法律上保護された利益に当たるか否かは、当該処分の根拠とされた実体法規が当該利益を一般的、抽象的にではなく、個別的、具体的な利益として保護する趣旨を含むか否かによつて決せられるべきものと解するのが相当である。
原告らは、行訴法九条の「法律上の利益」は、当該処分の根拠法規により保護された利益に限定する理由がないとか、本件処分のような授益処分については、授益者と相反する利益状態にあつて具体的に不利益を主張する者に出訴権を承認すべきでありまた、社会一般に一律かつ広汎な影響力を持つ処分については、当該処分により事実上最も不利益を受ける社会集団の一員にその集団的利益を主張して出訴することを認めるべきところ、本件処分は右のような性質を持つており、かつ、原告らは本件処分により、生命・身体・財産を侵害される高度の蓋然性があるから、原告らには本件処分の取消しを求める原告適格があると主張する。しかしながら、行訴法九条の解釈は先に示したとおりであり、原告らが本件処分の取消しを求める原告適格を有するか否かは、専ら本件処分の根拠法規である法が、原告らの主張する利益を、個別的な利益として保護する趣旨を含むか否かによつて決せられるべきものであるから原告らの右主張は失当である。
2 法は、電気事業が公益的性格の強い事業であることにかんがみ、「電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによつて、電気の使用者の利益を保護し、及び電気事業の健全な発達を図るとともに、電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによつて、公共の安全を確保し、あわせて公害の防止を図ることを目的」として(法一条)、電気事業を営もうとする者は、まず法三条一項に基づく被告の許可を受け、右許可を受けた者が一定の事項(法六条二項三号、四号)を変更しようとするときは法八条一項に基づく被告の許可を受けることを要し、電気事業者が所定の電気工作物の設置又は変更の工事をしようとするときは、その工事計画について法四一条一項に基づく被告の認可を受けなければならず、右の認可を受けた電気工作物を使用するについては、法四三条一項に基づく被告の事前検査、法四七条に基づく被告の定期検査を受けなければならない等の規制措置を定めている。そして、本件処分の根拠規定である法四一条は、右にみたとおり電気事業者が一定の電気工作物の設置又は変更の工事を行う場合に、その工事の計画について被告の認可を必要とするものであるが、法は、被告が火力発電用の電気工作物に関する認可を行うに当たつては、右工事の計画が法三条一項又は八条一項の許可を受けたところによるものであること(法四一条三項一号)、その電気工作物が法四八条一項の通商産業省令で定める技術基準に適合しないものでないこと(同項二号)、その電気工作物が電気の円滑な供給を確保するため技術上適切なものであること(同項三号)の各条件に適合するか否かを判断すべきこととしている。右のうち一号及び三号の要件の適合性が電気の円滑な供給能力を確保するという公共の利益の確保にあり、個人の具体的利益を保護する趣旨を含むものでないことは明らかである。次に二号の要件の適合性について法四八条一項の技術基準は、「一電気工作物は、人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないようにすること。二電気工作物は、他の電気的設備その他の物件の機能に電気的又は磁気的な障害を与えないようにすること。三電気工作物の損壊により電気の供給に著しい支障を及ぼさないようにすること。」により定めなければならないと規定している(同条二項)。
しかし、右の技術基準の規制目的は、同項各号を対比すれば容易に看取できるように、「電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによつて、公共の安全を確保し、あわせて公害の防止を図る」旨の公益の実現にあり(法一条)、電気工作物に基因する事故による附近住民の利益を保護することを主たる目的とするものとは解しえないから、法四八条二項一号の人体への危害と物件の損傷防止も公益の保護を通じて国民一般が受ける利益にすぎず、個々の国民の具体的な利益を保護する趣旨ではないというべきである。そうすると法四一条の認可は公益の実現を目的とするものといわなければならない。ちなみに、法四八条に基づき定められた発電用火力設備に関する技術基準を定める省令その他の省令をみても、右技術基準が特別に附近住民の利益を個別的に保護する趣旨のものであることを窺わせるような規定はない。
原告らは、電気工作物が人体に危害等を加えるのは、その周辺住民に対してのみであり、「公共の安全」は周辺住民の生命身体等の安全と個別に存在するものではなく周辺住民の生命等の安全確保を通じて初めて確保されるものであり、この場合の「公益」は個人的利益に還元され得るものであるから、個人的利益も保護していると解すべきであると主張するが、先に説示したとおり行訴法九条により原告適格を有するというためには、当該行政法規が、国民の権利利益を抽象的一般的に保護しているのみでは足りず、個々の国民の個別的・具体的利益を保護していることが必要なのであり、「公共の安全」を図るということは正に抽象的・一般的に国民の権利・利益を保護しているにすぎないから、原告らの右主張は失当である。
3 以上のとおり、本件処分の根拠法規である法四一条一項の規定は、公益の実現を目的とするものであり、原告らの主張するような附近住民の利益を個別的・具体的に保護するものとは解されないから、原告らは本件処分の取消しを求める原告適格を有しないといわなければならない。
三1 のみならず、以下のとおり原告らが本件油輸送管により危害を被る蓋然性は認められないから、原告らは本件処分の取消しを求める法律上の利益はなく、この点からも原告適格を欠くことが明らかである。
2(一) 原告らは、まず本件油輸送管には破損、漏洩のおそれがあり、これにより被害を受けるおそれがあると主張するので検討する。
(二) まず、本件油輸送管の概要、保安措置、安全対策をみると、<証拠>によれば、次の事実が認められ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
本件油輸送管は、送油所の存在する室蘭市陣屋町一町目一七三番地(発ターミナル)から、本件発電所の存在する伊達市長和町一六九番地の一(着ターミナル)まで延長約25.7キロメートルにわたり設置されたもので輸送量は一時間当たり二八〇キロリットル、輸送圧力は発ターミナルで平方センチメートル当たり27.5気圧である(右事実のうち、一時間当たりの輸送量、輸送圧力、発ターミナルの位置は当事者間に争いがない。)。
本件油輸送管の本管として使用されている鋼管は、特に溶接性の良好な材料として開発され、欧米の油輸送管で広い使用実績をもつ、API(アメリカ石油協会)規格5L×(ハイテストラインパイプ)1×五二、×五六、×六〇であり、その強度(規格値)は、引つ張り強さ、降伏強さともにわが国で一般に圧力用配管として用いられているJISの圧力配管用炭素鋼鋼管(G三四四回)のうちのSTPG三八、四二を大きく上回つている。その上実際に製造された鋼管は右規格値を更に一、二割上回る強度を有しているが、内圧、土圧、自動車荷重、温度変化、地震、他工事の影響等により生ずる応力に対し十分耐えうるよう計算された本管の強度計算に当たつては、右規格値(降伏強さ)を用いているため、余裕をもつて計算されていることになる。本件油輸送管は、右鋼管を本管とし、その周囲を保温材(輸送時に原油を必要温度に加熱するため、途中で土中に熱が放散し、油温が低下することを避ける。)として水を通しにくく耐熱性能がよい硬質発泡ポリウレタンフォームで覆い更にその外側を耐衝撃性、防水性、耐久性、耐腐食性に優れたガラス繊維強化塩化ビニール(FRV)で外装した二重の管構造となつており、これは、万一の漏洩の際、油が外部に拡散するのを防止する機能も果たしている。また、地盤調査の結果万一の漏洩時に油が拡散しやすいと判断された地盤の箇所などには、FRVに代え本管と同じAPI規格によるポリエチレン被覆鋼管を用い、更に強度を上げている。主要道路・河川・線路の横断部、市街化区域については、これらFRV外装配管又は鋼管外装配管の外側に更に鋼管のさや管を設置して安全性を高め漏洩の拡散を防止している。次に、本件油輸送管の本管の溶接については、技術的に確立され最も信頼できる被覆金属アーク溶接により行われ、その具体的な溶接方法は、あらかじめ溶接施工法試験を実施し最良の方法を選択した。そして溶接部についてはすべて放射線透過試験を行い、また河川横断部のうちの曲り部などについては特に磁粉探傷試験も併せて実施され、更にシャルピーの衝撃試験を実施し、衝撃にも十分な強度があることが確認された。
本件油輸送管の埋設は、一般的に、油輸送管の周囲に置換砂を、その上層部に大礫を取り除いた掘削土をそれぞれ用いて埋め戻しており、埋戻しにあたつては置換砂及び掘削土ともに二〇ないし三〇センチメートルごとに数層に分け、転圧機により三回以上転圧し締め固めを行つた。そして北電は、置換砂及び埋戻し後の締め固め状況につき施工ブロックごとに現場で密度試験を行つた。
本件油輸送管は、市街地の路面下埋設部で1.81メートル以上の深さに、一般埋設部でも最低1.21メートル以上の深さに埋設され、道路・線路の横断部では1.51メートル以上の深さに埋設されたさや管内に設置され、河川の横断部では専用橋を設置した場合はさや管内に、伏越し(河床下横断)の場合は計画河床高から約二メートル以上の深さに埋設したさや管内に設置されている。
本件油輸送管の輸送油種は流動点・引火点ともに高いC重油を使つており、右C重油は、常温においてアスファルト状に固まり(そのため摂氏五四ないし五七度程度に加温され運搬されている。)、かつ、容易に引火爆発することがない性質を持つている。次に各種保安施設としては、運転状態を監視する装置として運転状態を監視し緊急遮断弁等の作動状態、油輸送管内の圧力等に異常事態が生じ、又は二五ガル以上の地震を感知した場合等に警報を発する装置があり、圧力安全装置として、送油ポンプからの吐出圧力が最大常用圧力を越えないよう圧力調節弁により圧力を調節し、圧力が最大常用圧力の1.05倍を越えると警報を発する圧力特御装置、発ターミナル緊急遮断弁の上流側に設置され、管内の圧力が最大常用圧力の1.1倍を超えないように制御する異常圧力放出装置があり、漏洩検知装置として、油輸送管の送り出し側及び着側での重油の積算流量の差を監視することにより少量の漏洩でも検知できる流量比較装置、定常運転時の圧力分布と比較することにより比較的多量の漏洩を短時間で検知しうる圧力パターン検知装置、油輸送管の運転停止中に重油の温度変化による体積の変化を測定して漏洩を検知する加温流体漏洩検知装置、以上の各検知装置で検知できない微少な漏洩を油検知器内の油検知素子の電気抵抗の変化により検知する微少漏油検知装置、専用橋の漏洩拡散防止ピット内等のガス検知器によりガスを検知するガス検知装置、同じく専用橋の漏洩拡散防止ピット内等のレベル警報機により漏洩を検知するレベル検知装置があり、また、地震、漏油等の異常事態の際本管内の送油を直ちに停止する緊急遮断弁及び感震装置等がある。そして以上の各安全制御装置により、本件油輸送管には、安全制御機能として、八〇ガル以上の地震を感知し、又は流量比較法・圧力パターン法により、又は流量比較法・圧力パターン法により漏洩を検知した時、直ちに送油ポンプを停止し、全緊急遮断弁の閉鎖を自動的に行い油輸送管の運転を停止する緊急遮断(1)、四〇ガル以上の地震を感知した時及び微少漏油検知装置により漏洩を検知した時に、送油ポンプの停止及び発ターミナル緊急遮断弁を閉鎖し内圧を下げてから他の緊急遮断弁の閉鎖を自動的に行い、運転を停止する緊急遮断(2)、通信制御装置の故障等油輸送管の本管系の事故ではない時、まず着ターミナル緊急遮断弁を閉鎖したあと、送油ポンプを停止する保安停止がある。
そして、北電においては、運転操作・巡視・点検及び検査、緊急時の応急措置等を内容とする運転操作要領、巡視・点検・検査基準を定め、消防法による認可を得、一日一回以上油輸送管、緊急遮断弁等の保安設備等の巡回、点検を行い保安設備については定期的にその機能を検査することとし、また緊急時の応急措置等も定め、これらを講習会により周知させ定期的な防災訓練を行つている。
また、本件油輸送管の安全対策として後に認定する地震対策、他工事対策、防食対策及び地盤沈下対策の外、誤操作防止対策、漏洩拡散防止対策がとられている。このうち、漏洩拡散防止対策については、主要河川横断地点等九箇所に緊急遮断弁が設けられ地震時、漏洩検知時等異常時にこれが速やかに閉鎖され、送油ポンプが停止することとなつており、また、FRV外装管と本管との間の保温層中には油溜り及び油道管が設けられていて万一の場合漏油は、保温層を通つてFRV外装管に至り、その内面又は油道管を軸方向に進み、油道管内の油検知器により検知され、送油ポンプの停止、緊急遮断弁の閉鎖を自動的に行う、また先のとおり地震調査の結果万一漏油が生じた場合に拡散が比較的大きくなると判断された地盤の箇所では、更に万全を期するため鋼管外装管が使用されているが、これもFRV外装管と同様に油溜り、油道管、検知器が設けられている。また道路、河川線路等の横断部についてはさや管及び漏洩拡散防止ピットによる対策が設けられているのは後記認定のとおりである。
そして、本件油輸送管については、金森洋一室蘭工業大学名誉教授外一〇名の技術専門員(学識経験者)により構成された移送取扱所技術専門員会議により強度、溶接方法、設置方法、各種保安設備等につき検討され、消防法一一条の定める技術上の基準を十分満足し安全性の確保について現段階で考えられる技術的配慮が十分されているとの結論が得られた。
(三)(1) 原告らは、本件油輸送管の破損の原因として、まず、本件油輸送管自体による地下水脈の遮断及び埋設工事に伴う止水工事による地下水脈の変化による地盤沈下並びに本件油輸送管周辺に埋設された置換砂の地下水流による流失による空洞形成を挙げる。
(2) 本件油輸送管の工事現場附近の写真であることについて<証拠>によれば、本件油輸送管の経路には比較的地下水位が高い所が多く、特に伊達市清住地区では、最高水位、最低水位ともに一メートル以内の地域もかなりあること、そのため和光大学教授生越忠は、本件油輸送管の埋設工事は地下水との熾烈な戦いになると警告を発していたこと、現に工事中の掘削溝あるいは土留用の矢板引抜直後の穴に地下水が湧出し又は水が溜つている箇所が多く見受けられたとこが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
そこでこのような地下水位の高い箇所での本件油輸送管埋設方法をみるに、<証拠>によれば、地下水位の高い所では、掘削溝の崩壊を防ぐための土留として特に鋼矢板を用いて掘削溝への地下水の浸透をできるだけ防止し、これによつても浸透を十分防止しえないときは、掘削断面外に有孔管又は栗石を敷設し、溝内の地下水を会所部(隣接ブロックとの接合部)に集め、ポンプで排水処理をしたこと、そして排水作業終了時には右有孔管の管端を密閉し、栗石については標準の置換砂よりやや透水性の小さい砂質土により隔壁を設け、排水路としての機能を廃止させたこと、右のような排水処理を行つても、掘削床が湿潤で置換砂の締め固めが十分できない部分は、極力浸潤土を除去して置換砂工を行い、状況によつては小径の切込砕石又は切込砂利を数センチメートル厚さで敷き均し、転圧を行い、掘削床の安定を図つたこと、そして、本件油輸送管を設置する部分に置換砂を敷き均して転圧し、状況によつては置換砂と同じ砂を詰めた砂袋を二列に並べその間隙に置換砂を充填し転圧し、十分締め固めた後、油輸送管を置換砂に設置し、管周囲に置換砂を二、三〇センチメートルずつ三ないし四層に分けて敷き均し、各層ごとに転圧して締め固めたこと、したがつて、外径約四〇センチメートルの油輸送管は、幅1.2ないし1.4メートルの置換砂層中に均一かつ連続した状態で支持されることとなること、更に置換砂の上部は、大礫を取り除いた掘削土により埋め戻し、厚さ約三〇センチメートルごとに転圧し、締め固めたこと、工事途中に地下水が溜つたときは必ず埋め戻しに当たつては、水を掲げて良好な状態にしてから行つたこと、置換砂及び埋戻し土の締め固め状態については、施工ブロックごとに現場で密度検査をしたことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(3) ところで原告らは、地下水脈の変化により地盤沈下を生じていることは道路面等に亀裂を生じてきていることから明らかであるとし、また本件油輸送管埋設による道路の陥没・亀裂・地下湧水の被害は本件油輸送管の破損・漏洩の被害発生を示す徴表となる(請求原因3(四)(3))と主張するので、原告らが具体的に主張する道路の被害なるものにつき検討する。
まず、原告らは、道路の陥没地点として七個所を挙げる。しかし、本件油輸送管の工事現場附近の写真であることについて<証拠>によれば、和五郎道路、国道三七号線の右各写真撮影地点に陥没があるものとは直ちに認めがたく、同様の写真であることについて<証拠>によれば和五郎道路に直径五〇センチメートル程の穴が二つ開いていたことは認められるが、同様の写真であることについて<証拠>によれば、右はむしろ排水用のパイプを抜去した跡であることが窺われ、これに反する原告本人斎藤稔の本人尋問の結果は、右書証に照らし直ちに措信できず、同様の写真であることについて<証拠>によれば、館山道に小規模な亀裂・陥没ができたことは認められるが、本件全証拠によるも、右亀裂・陥没と本件工事との関連性は明らかでない。また同様の写真であることについて<証拠>によれば、竹原西六号線の路肩部分に陥没が生じたことが認められる。
次に原告らは、道路に亀裂が生じた個所として一五箇所を挙げるが、本件油輸送管の工事現場附近の写真であることについて<証拠>によれば、石川町室蘭市道、道々東関内伊達紋別停車線、弄月川付近道路、黄金一号線・大谷地、黄金一号線・南黄金川の各写真撮影地点にそれぞれ亀裂ないし舗装のはがれた個所があつたが、すべて後に修復されていることが認められ、また同様の写真であることについて<証拠>によれば、気門別川付近道路、館山下、館山道・今田宅前に小規模の陥没ないし亀裂が生じことが認められるが、本件全証拠によつても、これらが本件工事に起因するものと認めるには足りない。次に原告本人斎藤の尋問の結果及びこれにより同様の写真であると認められる<証拠>によれば、館山市土地改良区の用地に直径約四〇センチメートルの陥没が生じたことが認められるが、右陥没は、地下水とともに置換砂が流失したため生じたものであるとの同原告の本人尋問の結果は憶測にすぎず、直ちに採用することはできない。また、本件油輸送管の工事現場附近の写真であることについて<証拠>により同様の写真であることがみとめられる<証拠>によれば、西一号線清住及び稀府二〇号線・岩根川付近の写真撮影地点で亀裂が生じたことは認められるが、いずれもごく浅いどこでも見られるような亀裂にすぎないことは、右各証拠から明らかである。
更に原告らは、道路の被害として、六箇所の地下水の湧出を主張する。しかし、本件油輸送管の工事現場附近の写真であることについて<証拠>によれば、石川町国道線、稀府四号線・八号線の交叉部の写真撮影地帯に水溜りがあることが認められるが、同様の写真であることについて<証拠>に照らすと、右は地下水によるものとは断定しがたく、また同様の写真であることについて<証拠>によれば、北黄金地域、清住地区の写真撮影地点で湧水があつたことが認められるが、右各証拠によればこれは鋼矢板の引抜き跡であることが認められ、これら引抜き跡についても、その後転圧し通常のように施工したことは先に認定したところ及び同様の写真であることについて<証拠>に照らし明らかであり、また、<証拠>によれば和五郎道路の写真撮影地点で地下水の湧水が認められるが、右が本件油輸送管埋設工事の結果であると認めるに足りる証拠はない。
また、本件油輸送管の工事現場の写真であることについて<証拠>によれば、訴外安井淳のブロック塀にひび割れが生じたことが認められ、証人生越忠は、これを地盤沈下を示す例として挙げるが、更に同人の証言によれば、同人は、右塀に構造的欠陥があつたため矢板等の打込作業による震動のためひびが入つたことが被害者との間、また、塀の建築業者との間でも確認されたことを聞いたことがあることが認められ、この事実に照らすと同証人の前記供述を直ちに採用することはできない。
その他<証拠>に照らすと、本件油輸送管の埋設により道路に陥没・亀裂、崩壊箇所が生じており、地盤沈下もしくは空洞形成を証する徴表となつていると認めるに足りないものというべきである。
(4) 以上認定の置換砂及び埋戻土の締め固め状態並びに本件油輸送管の埋設規模、更に原告らが地盤沈下が現に起こりつつある徴表として指摘する道路の陥没、亀裂、崩壊なるものの実態を総合すると、仮に、工事期間中は、掘削溝の土留として用いられた鋼矢板に地下水脈が一部遮断され、あるいは、当該箇所を現に工事している際に地下水を排水するため、一時的に地下水流の一部に多少の影響を来すことがあつたとしても、鋼矢板が除去され置換砂等も十分締め固められた後も長期間にわたり本件油輸送管が地下水脈に多大の影響を与え、地下水の枯渇及びこれに伴う地盤沈下を起こす蓋然性が高いとは考え難く、現に<証拠>によれば、北電では本件油輸送管の経路沿いに、交通量が多く盛土した国道を横断する箇所等一〇箇所で、昭和五三年一〇月から月一回地盤沈下の有無を測定しているが、不等沈下等の地盤の変動はみられないことが認められるので、これらの事実に照らすと、<反証排斥略>、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(5) また<証拠>によれば、置換砂は在来地盤のレキ混り砂質シルトに比べ透水係数約五九〇〇倍であることが認められるが、一方、<証拠>によれば、本件油輸送管の経過地中急勾配な箇所における置換砂中の地下水の移動量は一日当たり五〇センチメートル程度と推定されていること、本件油輸送管埋設工事において使用された置換砂は九六パーセントが粒径0.1リミメートルを超えるものであり、粒径0.1ミリメートルの砂が水平流により移動を起こし始める最小の流速は大体毎秒0.3センチメートル(一日当たり259.2メートルと)とされていることが認められ、更に、<証拠>によれば、昭和五七年に原告らが地下水が豊富であると主張する清住地区外一箇所でさや管設置工事のため埋設部分を掘り起こしたが、埋設時の状態と全く変わつていなかつたことが認められ、これらの事実及び前記認定の原告らが空洞形成の徴表とも主張する道路の陥没、亀裂、崩壊なるものの実態を総合すると、地下水が置換砂部分に集まつて水道ができ、置換砂がこの地下水の流れにより流出し空洞が生ずる蓋然性が高いとは認められず、<反証排斥略>、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(6) 更に、先に認定したとおり、本件油輸送管の周囲は置換砂で十分締め固められているので、仮に何らかの原因で空洞が形成され、地盤沈下が起きても固い支点が生ずることがなく、原告ら主張のような単純梁の式を適用すること自体疑問がある。
(7) 以上のとおりであるから、地盤沈下又は空洞形成により本件油輸送管が折損する蓋然性が高いとは到底いえないものというべきである。
(四)(1) 次に原告らは、本件油輸送管が設置される地域は地震の多発地帯であり、直下型地震は予測不可能であることからすると、地震の際のいわゆる液状化現象等により本件油輸送管が破壊されるおそれがあると主張する。
(2) そこで本件油輸送管の対震設計及び地震時の保安対策についてみると、<証拠>によれば、消防法の技術基準では既往の地震の統計学的、地質的研究の結果から基盤に入る設計上の震度を規定しており、本件油輸送管の設置された伊達・室蘭地方は、右技術基準では、「B地区」に格付けされているが、本件油輸送管は本管のみで右「B地区」での震度に十分耐えるよう設計されていること、そして鋼管外装管によるときは、最も震度の大きい「A地区」での震度にも耐えられること、信頼できる記録のうち伊達室蘭地方に最も大きな影響を与えた地震は明治四三年の有珠山地震であるが、震度、地盤調査の結果からは、これと同程度の地震でも十分耐えうることが確認されていること、また、地震に対する保安施設としては、発・着ターミナルにそれぞれ感震計及び強震計が、発・着ターミナル及び主な河川を横断する地点等に合計九の緊急遮断弁が設置されていること、右感震装置が二五ガル(ほぼ震度Ⅲ程度)の地震を感知した場合は、適切な保安措置体制に入れるよう警報を発ターミナル内の制御室に発し、これにより油輸送管の全線、送油ポンプ等を巡視点検することとしていること、右感震計が四〇ガル(ほぼ震度Ⅳ程度)の地震を感知した場合は前記緊急遮<断・編注>(2)の措置が自動的に講じられること、八〇ガル(ほぼ震度Ⅴ程度)の地震を感知した場合は前記緊急遮断(1)の措置が自動的に講じられ、油輸送管全線の圧力試験、沈下測定装置での沈下の有無を測定することとなつていることが認められ、これに反する証拠はない。
右の事実によれば、本件油輸送管は、通常予測されうる地震に対して十分な対震設計保安対策がされていると認めることができる。
(3)証人生越の証言によれば、いわゆる内陸直下型地震は規模(マグニチュード)の割に加速度(ガル)、したがつて、被害が大きいことがあり、地盤がずれるおそれもあること、現在では右直下型地震は活断層の活動の結果と考えられているが、活断層は地中深く潜在していることがあるから、直下型地震が起こらないと予測することはほとんど不可能といつてよいことが認められる。しかし<証拠>によれば、伊達地方には活断層があるとはされていないことが認められ、この事実と証人生越の証言を総合すると、伊達地方にいわゆる直下型地震が起こることを全く否定し切れないけれども、その蓋然性が高いとは到底いえないことが認められるし、また、地震時の保安対策も十分用意されていることは前記認定のとおりである。
(4) 更に、地震の際の砂質地盤の液状化現象に関しては、証人生越の証言によれば、液状化現象は、地盤が硬く(例えばN値五〇以上)、深い所では起きないとされていること、着ターミナル附近は液状化の可能性のあることが認められ、<証拠>によれば、北電において砂質地盤の液状化の可能性を検討した結果、大地震の際に館山トンネルの出口から着ターミナルに至る地域が液状化する可能性も考えられたので、油輸送管の浮上り防止のため鋼管杭を深く打ち込み、これに油輸送管をワイヤーでつなぐ対策を講じていることが認められ、これに反する証拠はない。
証人生越は、仮に鋼管杭が岩盤に届いていても、鋼管杭が折れることにより事故が生じる可能性があると証言するが、右証言によつても本件油輸送管につきいわゆる流砂現象により事故が生ずる蓋然性が高いとは認定できず、<証拠>の記載も直ちに採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(五) 原告らは本件油輸送管の埋設ルートは地盤が不良で崖崩れ、土砂の流出などが起こりやすく特に館山地区の地質はシラスに似た性質を持ち、崩壊しやすいので危険であると主張する。
しかし、<証拠>によれば、本件油輸送管の埋設経路近傍には地すべり等防止法の適用を受ける区域はなく、右経路沿いの千舞別川付近や館山トンネル出口部の比較的急な斜面も、地震調査の結果によれば、本件油輸送管に支障を与える地すべりが発生する地形・地質ではないことが確認されたこと及び館山地区では、その地層を考慮して、右経路の大半を、下部の密に締まつた地盤の中を新設のトンネルで通過することとしたことが認められ、これらを覆すに足りる証拠はないので、本件油輸送管の埋設経路上で崖壊れ、土砂の流出などが起こり、本件油輸送管が破壊される蓋然性が高いとは認められない。
(六) 原告らはまた、本件油輸送管の大規模な破損・漏洩の原因として、他工事による事故及び溶接不完全を挙げるが、本件油輸送管の溶接に欠陥がないことは先に認定したとおりである。また、<証拠>によれば、本件油輸送管においては、位置標識、注意標示、注意標識を用いて油輸送管の存在について注意を喚起していること、油輸送管全線にわたり一日一回以上巡視を行い、他工事の有無を確認し、他工事があるときは工事中立ち会うこととしていること、他の土木工事が行われることが多いと考えられる所では油輸送管の上部約三〇センチメートルの位置に鉄筋コンクリート製の防護板を設けていること、また同じく油輸送管の上部約三〇センチメートルの位置に通信用ケーブルが埋設されており、他工事等によりこれが断線した場合は、送油の自動停止を行うこと、本件油輸送管の本管に使用された鋼管の上に掘削機のバケットを五メートルの高さから爪が当たるように落とす実験をしたが、右鋼管は、変形するのみで破孔は生じなかつたことがそれぞれ認められ、これに反する証拠はなく、他工事対策として十分な対策がされていることが認められる。
(七) 更に原告らは、油輸送管の破損・漏洩の態様として腐蝕による長期微量漏出を主張する。しかし、<証拠>によれば、本件油輸送管の外面には防錆エポキシ樹脂を塗布し、その外側を水を通しにくい硬質発泡ポリウレタンフォームの保温材及び耐腐食性に優れたFRVの外装材又はポリエチレンで被覆した外装鋼管で被覆していること、更には流電陽極法による電気防蝕措置を施している上、本管内面では、腐蝕抑制剤を油に注入して使用していることが認められ、これに反する証拠はない。したがつて、腐蝕対策を十分とられているものというべきである。
(八) 以上のとおり、本件油輸送管が破損・漏洩する蓋然性が高いとは到底いえないものであるが、更に実際の本件油輸送管の運用状況をみると、<証拠>によれば、本件油輸送管は消防法に基づく移送取扱所完成検査及び法に基づく使用前検査に合格し昭和五三年一一月に運転を開始した後、設備の損傷、漏油等もなく順調に運営されており、毎年消防法による保安検査を受け、所定の技術基準に適合していると判定されていること、本件油輸送管の埋設工事中であつた昭和五二年八月に有珠山の噴火及び地震があつたが、本件油輸送管に対する影響は何らなかつたこと、本件油輸送管の運転開始後、加速度八〇ガル以上の地震が三回起き、中でも昭和五六年一月二三日には一一〇ガルを記録したが、いずれの場合も、緊急遮断(1)の措置が行われ、本件油輸送管には何らの異常もなかつたことが認められ、これに反する証拠はない。したがつて、本件油輸送管は北電が計画・予測したとおり、順調にその機能を果たしているものということができ、この現実に照らしても本件油輸送管が破損・漏洩する事故の蓋然性が高いとは認められない。
3(一) 以上のとおり、本件油輸送管が破損・漏洩する蓋然性が高いとは認められないところであるが、更に原告ら個々人が右破損・漏洩による被害を被る蓋然性につき検討する。
(二) 原告正木が伊達市東浜地区に居住し、その住居は本件油輸送管から約1.9キロメートルの距離にあり、同原告の勤務する北海道立伊達高等学校は、本件油輸送管から近い所で約三〇〇メートルの距離にあることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、右伊達高等学校付近では本件油輸送管は通常より深い1.8メートルの深さに埋設され、また通常のFRV外装管より強度の大きい鋼管外装管が使用されていることが認められる。
右認定の事実に、先に認定した本件油輸送管の強度、輸送油種、保安措置、安全対策を総合すると、本件油輸送管本管が折損又は穿孔する危険性は低く、仮に本管から漏油が生じたとしても速やかに送油は停止され、漏油は外装管により外部への流出を防がれ、万一外装管もともに破損しても、右C重油の性状から土中に拡散する範囲は小さく、送油も速やかに停止されるため流出量も僅かであり、仮に地表に流出したとしてもその量は僅かであつて、爆発火災等ほとんど起こりえないものというべきである。
また破損・漏洩による飲料水の被害についても、原告正木の利用する上水道施設の設置場所、汚染の態様、程度等につき全く主張、立証がないばかりか、右のとおり重油が漏洩する蓋然性は低く、万一漏洩したときも右認定の重油の性状からして、上水道源を汚染する蓋然性は認められない。
(三) 原告佐々木が本件油輸送管の牛舎川横断箇所から約九〇〇メートル下流の河岸から六〇メートル離れた位置に、原告斎藤が紋別川及び気門別川横断箇所から約一九〇〇メートル下流の河岸から三五〇メートル離れた位置に、それぞれ居住していることは各当事者間に争いがない。右原告らは、牛舎川、紋別川及び気門別川を媒介とする火災時の延焼の被害を被るおそれがあると主張する。しかし、本件油輸送管は一般に火災・爆発の蓋然性がほとんどないことは先に認定したとおりである。そして、<証拠>によれば、本件油輸送管は右各河川を、地震に対し十分な強度を持つ専用橋により横断しており(本件油輸送管が右河川を専用橋により横断していることは、当事者間に争いがない。)、そこでは、FRV外装管の外側に更にさや管(鋼管)を設け、両端を密閉して外部への万一の漏油を防止していて、また、右さや管からパイプで鉄筋コンクリート製の漏電拡散防止ピットに接続され、万一の漏油のときはこれをピット内に誘導・貯蔵しピット内部に設けたレベル計、ガス検知器等により油の流入を検知して発ターミナルの制御室に警報が送られることになつていることが認められ、これに反する証拠はない。右事実と前記認定の本件油輸送管本管の強度、保安措置、安全対策、輸送重油の性状等を総合すると、右各河川横断部で油輸送管の本管及び鋼管外装管が折損し漏油が生じる蓋然性は低く、仮に生じてもさや管から漏洩拡散防止ピットに導かれ、外部に漏油しないものというべく、万一さや管も同時に破損するような事態が生じても、C重油は水中に入ればすぐ冷えて固まるものと考えられ、また漏油量は多量にはならず、火災が起こる蓋然性はないものというべきである。
右原告らは本件油輸送管の破損・漏洩により上水道汚染の被害を被ると主張するがその蓋然性はほとんどないことは原告正木と同様である。
原告佐々木は更に本件油輸送管の破損・漏洩により重油が海に流入して漁業被害を被るおそれがあると主張する。しかしながら、<証拠>によれば、本件油輸送管の河川横断箇所のうち七箇所(牛舎川等)は専用橋により河川を横断しその方式も右牛舎川と全く同様であることが認められるから、漏油が河川に流入する蓋然性は極めて低く、仮にあつたとしてもその分量は少量にすぎないことは右に説示したとおりである。また、<証拠>によれば、その他の二一の箇所では伏越しにより河川を横断しているが、ここでは、油輸送管の外側に更にさや管を設置し、両端を閉塞して、これを河川の規模に応じ計画河床高から二メートル以上の深さに埋設していることが認められ、この事実と、前記認定の油輸送管の本管の強度、保安措置安全対策、輸送重油の性質からすると、本件油輸送管が右河川横断部で折損し漏油が外部に流出することはなく、万一さや管を折損しても漏油量は少量にとどまるものというべく、結局本件油輸送管の折損、漏油による漁業被害を被る蓋然性はほとんどないものというべきである。
(四) 原告高橋、同野呂、同神山は本件油輸送管の破損、漏洩により油が海洋に流入して漁業上の被害を被るおそれがあると主張するが、その蓋然性はほとんどないことは原告佐々木について説示したところと同様である。
4 次に原告正木は本件油輸送管の埋設自体により道路の陥没・亀裂などの被害、地下水脈の変化による地下水の枯渇による飲料水の変化、環境変化による不測の被害、爆発等に対する不安感等による精神的、健康的被害を被ると主張する。しかし、まず地下水の枯渇による飲料水の変化については原告正木の飲料水の摂取実態に即した具体的主張・立証に欠けるのみでなく、本件油輸送管の埋設により地下水脈が変化し地下水が枯渇する蓋然性が高いとは到底認められないことは先に説示したとおりである。また地下水脈の変化・環境の変化による被害なるものも、具体的主張・立証に欠ける。本件油輸送管につき、爆発等の蓋然性はほとんどないことは先に説示したとおりであるから、仮にこれに不安感等をもつたとしても、到底これをもつて原告適格を基礎づけることはできないというべきである。また、道路の陥没・亀裂などの被害については、これが同原告の個人的な法律上の利益を侵害するものとは解しがたい。のみならず、本件油輸送管埋設工事が既に完了していることは当事者間に争いがないところ、同原告の主張する道路の被害なるものは先に説示したとおり、工事中のものですでに修復され到底訴えの利益を基礎づけられないものか、そもそも本件油輸送管工事との関連性の不明なものか、どこにでも見られる亀裂等で被害といえないものか、又はその原因が明らかでないものであつて、いずれも本件処分の取消しを求める法律上の利益となりうるものではない。
5 原告正木、同斎藤、同井上、同上田は、本件発電所の操業による大気汚染による被害を、原告高橋、同野呂、同神山は、本件発電所の温排水等による漁業上の被害を、原告佐々木は右両被害を、被るおそれがあると主張するが、これらは到底本件処分の効果として把えることはできず、本件処分と関連性のないことが明らかであるから、本件処分の取消しを求める法律上の利益となりえないことは明らかである。
四以上のとおりの次第で、いずれにしろ原告らは本件処分の取消しを求める原告適格を欠くものというべきであるから、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの訴えをすべて不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。
(時岡泰 大鷹一郎 満田明彦)